去る2021年11月に公開した映画『信虎』の関連グッズの一つサウンドトラックCDのブックレット制作を弊社グループ企業のミヤオビピクチャーズより委託を受け編集作業を行った際、『映画秘宝』2021年12月号(10月21日、双葉社発行)掲載の作曲家・池辺晋一郎氏インタビュー記事(下記参照)の一部を改変して流用したにもかかわらず、紙面スペースの都合で(公開間際の深夜編集作業だったこともあり)参考文献を削除し掲載しなかった件を謝罪いたします。
 取材費用が間接的に弊社グループから出ていたとはいえ、結果的に無断で流用する形になってしまい、創作活動を営む出版社としてあってはならない行為であると思います。映画秘宝編集部、取材をされたトヨタトモヒサ氏をはじめ、依頼主であるミヤオビピクチャーズおよび映画『信虎』をこよなく愛してくださっているファンの皆さまに対し、この場を借りて陳謝申し上げます。今後はこのようなことが起らないよう社員一同心構えを新たに務めて参りますので、ご宥恕のほど宜しくお願い申し上げます。

株式会社 宮帯出版社


【映画秘宝記事原文】

(以下、リード)
今回、『信虎』の音楽を手掛けるのは巨匠・池辺晋一郎。
黒澤明をはじめ、多数の監督とコンビを組んできたことでも知られる池辺氏に、これまでの仕事と共に本作の音楽について語ってもらった。
取材・文◎トヨタトモヒサ

(以下、本文)
引き受けたのは武田信玄との縁

――まずは今回の作品を引き受けるに当たっての決め手は?
池辺 僕は信虎の息子である信玄とは深い関わりがあって、黒澤明監督の『影武者』(80年)だけでなく、明治座で上演した舞台の『武田信玄』(80年)の音楽も書いているし、その父親の話と聞いて、これはもう何かの縁だと思わざるを得なかったですね。しかも宮下(玄覇)監督が『影武者』の大ファンだというから、僕が担当することになったのも、ある意味で宿命だったかもしれない。それと主演の寺田農さんも昔からよく知っていて、僕が金沢でやっていた小規模なトークコンサート(※音楽堂アワープレミアム/15年)にお願いして来てもらったこともある。だから、題材が信虎で、しかも寺田さんが演じる。その二つが僕の中で、かなりのしかかってきた感じだったね。
――最初の時点で作曲家の立場として気になった点などは?
池辺 脚本を読んで、メールか電話か忘れたけど、西田(宣善)プロデューサーにペダンティック(※衒学的)だと伝えたのを覚えてます。やや地味過ぎるんじゃないかと思い、これが果たして一般のお客さんを惹きつける内容に成り得るかなと。ちょっとそういう印象を抱きました。だから、音楽の力で、そのペダンティックな点を少しでも緩和できれば、という気持ちがありましたね。
――本作は、宮下さん、金子修介さんの共同監督ですが、音楽打ち合わせについてはいかがでしたか?
池辺 打ち合わせは全て宮下さんでしたね。そこに至るプロセスもやっぱりペダンティックでね。たぶん、撮影現場でもそうだったんでしょうが、道具とかちょっとした(脚)本直しとか、ある意味では非常に凝り性なんですよ。それもあって、なかなか打ち合わせに入れなかった(笑)。映画の場合、決まった尺を出してくれないと書きに入れない。それで「どうにかしてください」と延期してもらったくらいだけど、最終的に監督の拘りは完成した映画に良い結果として表れていると思いますね。
――メインテーマの着想については?
池辺 この映画にはある種の重さが必要で、軽薄な印象を与えてはいけない。戦国のあの時代を感じさせる雲、あの時代ならではの風が音に乗り移らなくちゃダメだと思いつつ、書いたところがありますね。これまでにも大河ドラマの『黄金の日日』(78年)や『独眼竜政宗』(87年)など、戦国時代を扱った作品にはたくさん関わってきたので、その独特の空気感を表現したいと思いました。
――今回、薩摩琵琶をはじめ、いくつかの邦楽器を使っていますが、それは池辺先生からの提案だったのでしょうか? 池辺 ええ。僕はラフカディオ・ハーン(小泉八雲)の『耳なし芳一』をオペラ(82年)にしていて、小説にはたった一丁の琵琶で合戦の模様を見事に描写して、平家の幽霊が感動する場面があるけど、平家琵琶だと音がわりあい薄っぺらくて現代人の耳には迫力がない。薩摩琵琶なら音も大きいし、弦を弾くだけでなく、楽器の本体をバチン! と打ったり、様々な奏法がある。それで本来、平家琵琶でやるところを薩摩琵琶で表現したんです。もちろん、オーケストラで平家琵琶を表現することもできたけど、基点は動かさず、琵琶は琵琶でも薩摩琵琶でやった、ということですね。他にも薩摩琵琶とチェロの曲(空のために地のために―琵琶とチェロのためのデュオ―/82年)も書いているし、僕としてはしばしば重用してきた楽器だったわけです。それもあって、今回、台本かラッシュか忘れたけど、僕の中で薩摩琵琶が存在を主張し始めたっていう。そういう事実がありましたね。
――それでは薩摩琵琶に関してはまさに狙い通りに使うことができたと。
池辺 ええ。演奏は長年、僕が信頼していた半田淳子さんにお願いしていて『耳なし芳一』も初演以来、この方の演奏だったけど、お年で引退されたので、弟子の石田さえさんにやってもらいました。思った通りのいい演奏になりましたね。話が戻るけど、薩摩琵琶には特殊な奏法が色々あって、バチを八の字を描くように回しながら弾く奏法なども今回使っています。それから信虎の霊光の場面、ここは絶対に薩摩琵琶だなと思いました。
――霊光の場面は普通とはちょっと違う不思議な効果が出ていますね。
池辺 ええ。そこは他の場面で使う琵琶とは区別したかったんですよ。それで何か細工しようと思って、フェイズシフターというエフェクターを使いました。理屈を言うと難しいけど、要は音の位相を変えていて、たとえば、シュウウウ~ンという感じで音がねじれる。そういう効果を薩摩琵琶にプラスしています。この霊光の琵琶を細工音にするのも、初期から構想していました。

映画の世界では
監督権限が絶対

――スコアは全24曲で、上映時間135分に対して約54分といった分量ですが、こうした仕事には付き物のスケジュールについてはいかがでしたか?
池辺 今回はとても有難いことにたっぷりと時間をもらえました。もちろん時間があるから必ずしも良い仕事ができるとは言わないけど、追われ追われて書くよりは、じっくりと考えて書くほうが、それはいい仕事が出来ますよ。これまでの経験だと、たいてい天候で撮影が延びたとか、誰かが病気したとかトラブルが起きて遅れると、全ての皺寄せは音楽にくるけど、そういう意味では、今回は、恨み節は一切ないです(笑)。 ――監督からの具体的なオーダーは何かありましたか?
池辺 宮下監督から「どうしても『影武者』の音楽を使ってくれ」と言われて、これは本当のことを言うと困りました。やっぱり過去に自分が書いた音楽を再利用するのは、物作りをする人間としては忸怩たるものがありますからね。『影武者』の最後、死屍累々の中、仲代達矢さんの影武者が彷徨う場面、あそこの音楽を使いたいと。ただ、完全に『影武者』をハメるのではなく、『影武者』を思わせるモチーフで勘弁してもらった。出だしは生かしたけど、ちょっと尾ひれを変えたというか……。まぁ、映画ほど監督の権限が絶対の世界はありませんからね。仲代さんとはよく黒澤さんの思い出を話すのですが、『乱』(85年)の撮影で仲代さんは、早朝から4時間30分かけてメイクをして現場入りしたら、監督がハックション! とクシャミをして、「風邪をひいたかな……今日は中止しよう」って。周囲が「せめて1カットくらいは」と言っても監督が中止と言ったら中止になる。それが映画の世界ですよ。監督の一言は絶対。それは皆さんにも知っておいてもらいたいですね(笑)。
――お話の端々で『影武者』の話題が出ていますが、あの作品は元々佐藤勝さんが降板されて、武満徹さんからの推薦で起用されたそうですが、当時、大監督との仕事で緊張されるようなことはありませんでしたか?
池辺 僕は当時35歳で、黒澤さんは70歳。歳が半分ですよ。僕としてはおじいちゃんと会っているような感覚に近くて、逆にそれほど緊張することはなかったですね。それを示すひとつ面白い話があって、最初、まだ引き受ける前に「とにかくラッシュを観てくれ」と言われて、砧の試写室へ行ったんですよ。それは馬を囲んだ武者たちが雄叫びを上げる場面だったけど、間近で大声で叫んでいるにも関わらず、馬は平然としていたから驚いたんですよ。それで黒澤監督が「どうだった? 音楽をやってくれるかね」と聞かれたので、その馬の話をしたら、監督は笑顔で「面白いことを言うね。君、あれは北海道で何日も大声を上げて馬を訓練したんだよ」と言うから、「馬を慣らす時間があるなら、僕にも慣れる時間を下さい」と返したんですよ。そうしたら、これが黒澤組中に知れ渡ってしまってね(笑)。僕は何気なく言っただけのつもりだったんだけど、その場にいなかった仲代さんにまで伝わっていて(笑)。仲代さんとは今もよく『影武者』当時の話をしますよ。「自分はいわば勝新太郎さんの影武者みたいなものだ。君は佐藤勝さんの影武者だ」。「そうですよ。相手の二人とも“勝”の字が入っているから、我々は負けですね」なんて、よく笑い合っているんですけどね(笑)。
――監督で言うと、『D坂の殺人事件』(98年)、『姑獲鳥の夏』(05年)で組まれた実相寺昭雄監督との仕事はいかがでしたか?
池辺 実相寺さんが他の監督を違うのは、このシーンに何分何秒の音楽って入れ方じゃなくて、台本やラッシュの印象に基づいて、コンサートでも演奏できるような組曲を書いて欲しい、といったオーダーなんです。それで『D坂~』では「官能」とか5つくらいタイトルを提示されて、オンド・マルトノとヴィオラの曲を書いたんだけど、そこから満遍なく選ぶんですよね。使わないところがないくらい書いた曲を全て使ってくれる。次の『姑獲鳥~』では「タイトルをください」と言ったら、「空かない踏切」だったか……全く関係ないタイトルを言うわけ(笑)。それで今度はこっちでタイトルを勝手につけて、また組曲形式で曲を書きました。そうしたら、この時も実に上手くハメてくれた。いや、不思議な人でしたね。
――オンド・マルトノは、『独眼竜政宗』や『八代将軍吉宗』(95年)などでも使われていますね。やっぱりメシアン(の「トゥーランガリラ交響曲」)の影響でしょうか?
池辺 ええ、最初はね。あとは演奏家の原田節さんと親しいので、思い付くんでしょうね。
――大河も今は、溜め録り選曲方式になって久しいですが、池辺先生の頃は毎週録音されていたそうですね。
池辺 溜め録りだと、どこに使われるかも分からない中、一度に100~200曲くらい書くわけですよ。しかも同じ曲が何度も使われたりするし、逆に書いたのに一度も使われない曲もある。これは作曲家から言えば忸怩たるものがあるんじゃないかな。やっぱり尺録りで毎回きちっと書いたほうが、仕事としては面白いですね。それと一番大きいのは、遊べるんですよ。作品は忘れてしまったけど、途切れ途切れにセリフを言う場面があって、「そこは……(ポン!)」「しかも……(パーン!)」と入れてみたりしたけど、こういうことは溜め録りでは絶対にできない。もちろん、ディレクターと打ち合わせをしてやるわけだけど、それこそが毎回音楽を書ける醍醐味ですよ。もちろん大変は大変です。大河の場合、1年間50週近く続いて650曲くらい書くわけですからね。これまでに5回やったけど、毎回20話過ぎくらいになると「なんでこの仕事を引き受けたのか?」と後悔の念に駆られてくる。そしてこれも同じだけど、40回あたりを過ぎると、「残念だなぁ、もう終わってしまうのか」と思えてくる。それも含めて、毎回録っていく楽しみがあるわけです。

映画やTV、舞台の仕事は
コラボレーションの面白さ

――話を『信虎』に戻しまして、完成した映画をご覧になっていかが思われましたか?
池辺 効果音の方に大拍手を送りたいですね。たとえば刀の切る音、ぶつかり合う音、或いは鎧がこすれる音……そういった音が実によくできている。その効果音を讃えると共に自分で言うのも不遜だけど、僕が書いた音楽が加わり、効果音と音楽、この二つで、作品としての仕上がりが実にいい形で成就したんじゃないかなと思います。どうにか作品のためにお役に立てたのではないでしょうか。
――池辺先生は、現代音楽の作曲家としてご活躍されていますが、純音楽と映画音楽における決定的な違いを挙げるとしたらいかがですか?
池辺 それはもう一言で言えますよ。映画やテレビ、演技の場合、監督という絶対的な存在があるにせよ、何人かでものを作っていくコラボレーションの面白さ、これに尽きますね。対してコンサートの音楽は自分ひとりの世界です。もちろんオーケストラや合唱団などの意見もあるし、委嘱先が15分の作品を期待しているところに、3時間の曲を書くわけにはいかないからすべて勝手にやるわけではないけれど、あくまで個人の世界。そこが決定的な違いとしてありますね。それから、「純音楽」と言うけれど、この言い方はあまり好きではないんですよ。言うとすれば、付帯音楽とコンサート用の音楽ということですね。この純とか不純とか言うのは、昔、純喫茶なんていうのがあったけど、何か違うかと言えばアルコールを出さなかった。じゃあ、アルコールは不純なのかと。酒好きとしてはけしからん話だよね(笑)。それと映画の音楽を「劇伴」なんて呼ぶのも嫌いだね。劇の伴奏じゃないだろうって思うんですよ。





本社移転のお知らせ



 平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 さて、弊社は11月26日に平安京・大極殿にほど近い下記の住所に移転いたしました。すべての移転作業が完了いたしますのは来春となりますが、一日でも早く新住所での営業を軌道に乗せたいと考えております。
 新住所への移転に伴い、電話番号、ファックス番号も下記のとおり変更となります。
 お手数をおかけいたしますが、ご登録の変更をお願い申し上げます。
 今後ともご愛顧のほど宜しくお願い申し上げる次第です。

 新住所 〒602-8157 京都市上京区小山町908-27 (千本通丸太町上ル東入ル)
 新TEL 075-366-6600
 新FAX 075-366-3377


株式会社 宮帯出版社






【お詫びと訂正】 『徳川家康・秀忠の甲冑と刀剣』



 『徳川家康・秀忠の甲冑と刀剣』に誤りがありましたので、訂正いたします。
 内容につきましては、正誤表をご覧ください。
 読者ならびに関係者の皆様に深くお詫び申し上げます。




-->
Copyright (C) 宮帯出版社 All Rights Reserved.